小売業が補助金で動画制作するには?従業員5人の壁と商品動画の経費区分
商品を動画で見せたい、店の雰囲気をSNSで伝えたい。小売店や物販店の方からよくいただくご相談です。その費用に補助金を使えないかと調べ始めたとき、小売業には最初に確認しておきたい線引きがあります。「小規模事業者」に当てはまるかどうかの人数基準が、業種によって違うのです。ここを先に押さえると、探す制度を間違えずに済みます。先に結論を書くと、小売業は「常時使用する従業員5人以下」が分かれ目です。ただし数え方には除かれる人がいて、店頭に立つ人数より少なくなることがあります。この記事では、小規模事業者持続化補助金 第20回の公募要領(第8版)にそって、人数の数え方から動画制作費の経費区分までを順に整理します。
小売業は「従業員5人以下」が小規模事業者の基準です
動画に使いやすい制度の代表が小規模事業者持続化補助金です。名前のとおり対象は小規模事業者に限られ、その人数基準が業種ごとに分かれています。第20回の公募要領では、次の3つに区分されています。
| 業種の区分 | 常時使用する従業員の数 |
|---|---|
| 商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 |
| サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
| 製造業その他 | 20人以下 |
小売業はこのうち商業・サービス業に入ります。中小企業庁の「中小企業・小規模企業者の定義」でも、商業は卸売業・小売業を指すと注記されています。つまり小売店が見るのは、製造業の20人以下ではなく5人以下のほうです。同じ「小規模」でも、業種によって4倍の差があります。
ただし、諦めるのはまだ早いかもしれません。大事なのは数え方です。公募要領では、数えるのは労働基準法第20条の「解雇の予告を必要とする者」だとされたうえで、会社役員や同居の親族従業員は含まれませんと明記されています(ほかにも下の図のとおり除かれる人がいます)。ご家族で切り盛りされているお店では、店頭に立つ人数より少なく数えられることが珍しくありません。
「中小企業」と「小規模事業者」は別の話です
中小企業基本法の中小企業者の定義では、小売業は資本金5千万円以下または常時使用する従業員50人以下とされています。こちらはかなり広い枠で、多くの小売店が当てはまります。一方で小規模事業者は上に書いた5人以下です。制度によってどちらの枠を使うかが違うので、「中小企業だから対象」と早合点せず、その制度がどちらを求めているかを確かめてください。動画制作費は「どこで使うか」で経費区分が変わります
小規模事業者に当てはまるなら、次は経費区分です。第20回の通常枠は補助上限50万円・補助率3分の2とされています(インボイス特例・賃金引上げ特例による上乗せがあります)。そのうえで、動画制作費に関係するのは②広報費と③ウェブサイト関連費の2つで、どちらも補助金交付申請額の上限は30万円(税込)、いずれもその経費だけでの申請はできません。
ここは誤解しやすいところです。補助率3分の2なので、補助金30万円を受けるには45万円ほどの発注が必要です。しかも通常枠の補助上限は全体で50万円ですから、動画に30万円を充てると、ほかの取り組みに回せるのは残り20万円になります。
分かれ目は、その動画をどこで使うかです。広報費の説明には「自社ホームページや、ECサイトにて使用する動画や写真の制作費用等については、③ウェブサイト関連費にて計上してください」と書かれています。裏を返せば、自社サイトやECサイト以外で流す宣伝動画は広報費の側で考えることになります。実際、広報費の対象となる経費例には「商品・サービスの宣伝のための画像や動画作成」「SNS広告、運用代行費」「街頭ビジョンやデジタルサイネージ広告への掲載」が挙げられています。
| 小売店が作りたい動画 | 読み取れる経費区分 | 公募要領の手がかり |
|---|---|---|
| 自社ECサイトの商品ページに置く商品紹介動画 | ウェブサイト関連費 | 対象例に「ウェブサイトに掲載する商品・サービスを販売するための画像や動画作成費用」 |
| SNS広告として配信する商品の宣伝動画 | 広報費 | 対象例に「SNS広告、運用代行費」 |
| 街頭ビジョン・デジタルサイネージの広告枠で流す映像 | 広報費 | 映像の制作費は「商品・サービスの宣伝のための画像や動画作成」、広告枠への出稿は「街頭ビジョンやデジタルサイネージ広告への掲載」 |
| 会社案内・求人のための動画 | 対象になりにくい | 対象外例に「会社案内パンフレット作成・求人広告」 |
なお、自分の店の店頭モニターで流すだけの映像には、直接あてはまる例示が見当たりません。制作費そのものは「商品・サービスの宣伝のための画像や動画作成」で読めそうですが、事業計画を書く前に実際の使い方を伝えて事務局にご確認ください。経費区分の詳しい考え方は経費区分を整理した記事、第19回からの変更点は変更点をまとめた記事、ECの商品動画はEC商品動画の記事に書いています。
動画の中身にも条件があります
広報費の説明では、補助対象になるのは補助事業計画に基づく商品・サービスの広報を目的としたもので、単なる会社のPRや営業活動に使われるものは対象外とされています。対象外の例に挙がっているのが「販路開拓に繋がる商品・サービスの名称や宣伝文句および事業者名等が付記されていないもの」です。雰囲気だけのイメージ映像は、このただし書きに引っかかる可能性があります。商品名やサービス名、店名を画面に出す構成にしておくと安心です。このほかウェブサイト関連費の対象外例には「有料配信する動画の制作費」「補助事業期間内に運用に至らなかったホームページ・ランディングページ」が挙がっています。撮影のために買う商品や小道具の代金も、広報費・ウェブサイト関連費のどちらでも対象外とされていますので、自己負担として見込んでおいてください。
数えたら5人以下だった方へ:地域でまとまって作る道もあります
持続化補助金には〈共同・協業型〉という枠もあります。申請する主体は商工会・商工会議所・都道府県中小企業団体中央会・商店街振興組合・法人化された事業協同組合などの地域振興等機関で、そこに5者以上の参画事業者が加わる形です。第3回の公募要領では、この参画事業者も小規模事業者(商業・サービス業は従業員5人以下)と定義されていますので、ご自身の店が5人以下であることが前提になります。商店街としての共同PR動画を考えているなら、まず組合に話を持っていくのが早道です。第3回は2026年8月14日から9月30日17時までの受付とされています。くわしくは共同・協業型の記事にまとめました。5人を超えている小売店には、別の道があります
数え直しても5人を超える場合、持続化補助金は一般型も共同・協業型も対象外になります。共同・協業型は参画事業者そのものが小規模事業者である必要があるため、組合を通せば使えるというものではありません。ただ、そこで終わりではありません。
- 新しい取り組みとセットで考える。 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には広告宣伝・販売促進費という経費区分があります。ただし主役は新事業や設備投資のほうで、その新事業と結びついた動画かどうかが分かれ目です。新しい業態の店を出す、新しい商品ラインを立ち上げるといった計画があるなら検討の余地があります。第1回の申請受付は2026年8月31日から9月30日18時とされていますので、いまから動ける選択肢です。3つの枠と対象経費は第1回公募の記事で整理しました。
- 自治体・公社の販路開拓系を、次の募集に向けて準備する。 たとえば東京都中小企業振興公社の市場開拓助成事業(都内に事業所がある方向けの制度です)は、助成限度額300万円・助成率2分の1以内で、販売促進費の対象経費に動画制作費が挙げられています。ただし展示会等参加費の申請が必須で、販売促進費のみの申請はできないとされています。令和8年度の申請受付は2026年5月15日から5月29日で、すでに終了しました。自治体の枠は春に募集が集中するので、いま間に合わないなら次年度に向けて計画を立てておくのが現実的です。お住まいの地域での探し方は自治体制度の探し方ガイドで解説しています。
要件・金額・日程は制度ごと、公募回ごとに変わります
上の2つは方向性であって、対象経費も上限額もスケジュールも制度によって違います。とくに自治体の助成は年度が変わると内容が変わることが珍しくありません。動画の話を先に進める前に、必ずその回の最新の公募要領・募集要項を確認し、判断に迷うところは事務局の窓口にご相談ください。当社は動画制作を行う会社で、申請の代行や採択の保証は行っていません。撮る前に決めておきたい、小売ならではの3つ
- 発注のタイミングと、その前にある締切。 交付決定日より前の発注・契約・支出は補助対象外です。第20回の申請受付は2026年12月15日17時までですが、その前に商工会・商工会議所に発行してもらう事業支援計画書(様式4)の受付締切が2026年12月4日にあり、これを過ぎるといかなる理由でも発行できないとされています。採択発表は2027年3月頃の予定で、交付決定は採択発表から概ね1か月から2か月かかる場合があると書かれていますので、実際に発注できるのは2027年の春以降です。補助事業の実施期限は2028年3月31日、実績報告書の提出期限は2028年4月10日とされています。この幅の中に撮影・納品・公開・支払いが収まるよう、店の販促カレンダーを組んでください。相談や見積の取得は前もってできます。
- 他社商品とお客様の写り込み。 店内を撮ると、仕入れた他社ブランドのパッケージや来店中のお客様が映ります。自社商品の紹介なのに背景の他社ロゴが目立つと、公開後に差し替えが必要になることもあります。閉店後に撮る、棚の一部を整えるなど、撮影日の段取りを先に決めておきましょう。
- 店内で流れている音楽。 営業中の店内を撮ると、有線放送やBGMがそのまま録音されます。そのまま公開すると音楽の権利の問題になりますので、収録時は音楽を止めるか、あとから使える音源に差し替える前提で撮ります。
見積書は「動画制作一式」にしない
補助金の審査でも実績報告でも、費用の内訳を説明できる書類が求められます。第20回では、採択発表後から交付決定までに価格の妥当性を証明できる見積書等の提出が必要とされ、支出内容が不明確なものは認められないと書かれています。「動画制作一式」ではなく、企画構成・店舗撮影・商品撮影・編集・ナレーションといった作業ごとに数量と単価を分けておいてください。あわせて押さえたいのが相見積です。第20回では、発注先・委託先の選定にあたり発注総額(1件あたり)が50万円超(税込)になるものは2者以上から見積を取り、より安価な発注先を選ぶこととされています。事業内容の性質上どうしても見積が取りにくい場合は、随意契約の理由書を提出する扱いです。動画制作は50万円を超えることが珍しくありませんので、相見積もりと業者選定理由書の記事もあわせてご覧ください。
出典と、確認していただきたいこと
この記事は2026年8月14日時点で公開されている情報にもとづく整理です。小規模事業者の定義・従業員の数え方・経費区分・日程の記載は小規模事業者持続化補助金第20回公募 公募要領(第8版)、共同・協業型の参画事業者の定義と日程は同〈共同・協業型〉第3回公募 公募要領(第6版)、業種区分の考え方は中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」、市場開拓助成事業の記載は東京都中小企業振興公社の公表内容によります。制度は公募回ごとに要件・対象経費・補助率が変わり、同じ回でも要領が改訂されることがあります。申請の可否や経費区分の最終的な判断は各事務局が行いますので、最新の公募要領をご確認のうえ、窓口にご相談ください。よくある質問
アルバイトを含めると6人います。持続化補助金は使えませんか?
すぐには判断できません。第20回の公募要領では、数えるのは「常時使用する従業員」で、会社役員や同居の親族従業員は含まれないと明記されています。日雇労働者、2か月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、試用期間中の者も含まれません。店にいる人数と、この定義で数えた人数は一致しないことがあります。判断がつかなければ商工会・商工会議所の窓口でご相談ください。それでも5人を超える場合、持続化補助金は共同・協業型も含めて対象外になります(参画事業者も小規模事業者である必要があるためです)。新しい取り組みとセットにする制度や、自治体の販路開拓系の助成に目を向けることになります。
動画で売上が伸びて従業員を増やしたら、補助金はどうなりますか?
第20回の公募要領には、補助対象者は事業終了まで小規模事業者であることが必要だと書かれています(小規模事業者卒業加点を希望する事業者を除く、という但し書きがあります)。申請時に5人以下でも、補助事業の途中で人を増やして基準を超えると影響が出る可能性がある、ということです。採用の予定がある場合は、事業計画を立てる段階で商工会・商工会議所の窓口に見通しを伝えて確認しておくと安心です。実際の取り扱いは事務局の判断になります。
仕入れた商品を紹介する動画でも、対象になりますか?
自社で作った商品でなければならない、という記載は第20回の公募要領には見当たりません。軸になるのは、販路開拓、つまり自店の売上につながる取り組みとして説明できるかどうかです。ただし広報費の対象外例には、商品・サービスの名称や宣伝文句、事業者名等が付記されていないものが挙げられていますので、何の店の何という商品かが分かる作りにしてください。あわせて実務面では、他社ブランドの商品を大きく扱う場合、その画像や動画の使い方にメーカー側のルールがあることがあります。制度の話とは別に、仕入先へのご確認をおすすめします。
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